先日、近くまで行く機会があり、泰山館を見学させていただきました。設計は、当社顧問でもある泉幸甫さん。図面や写真では理解していたつもりの空間も、実際に身体を通して体験すると、設計の意図がより立体的に伝わってきます。

まず印象的だったのは、建築の輪郭を強く主張するのではなく、環境の中に溶け込ませる配置計画です。建物は周囲の緑と対峙するのではなく、取り込みながら共存するように構成されており、外部空間と内部空間の境界が非常に曖昧です。中間領域としての共用部やアプローチが丁寧に設えられ、光・風・視線が緩やかに抜けていきます。また、スケールのコントロールが秀逸で、人の身体感覚に寄り添った寸法計画がなされていることを強く感じました。天井高さや開口の取り方、視線の抜け方に至るまで、過不足のないバランスで構成されており、過度な演出に頼らずとも豊かさを生み出しています。素材の選定と経年変化への眼差しも、この建築の価値を支えている要素だと思います。特別に華美な素材を使うのではなく、時間とともに風合いを増していくものが選ばれ、結果として建築そのものが「育つ」ような印象を受けました。緑の成長と呼応しながら、建物もまた時間を内包しているように感じられます。

動線計画においても、単なる効率性ではなく、体験としての連続性が意識されています。外部から住戸へと至るプロセスの中で、空間の密度や明るさが緩やかに変化し、日常の中に小さな「間」が挿入されている。この積層が、住まいとしての奥行きを生み出しているのでしょう。竣工から長い年月を経てもなお価値が保たれている理由は、こうした表層的ではない設計の積み重ねにあると実感しました。流行や新しさではなく、時間に耐えうる構成力と空間の質。その確かさが、この建築を「ビンテージ」として成立させているのだと思います。

建築が時間とともに成熟していくとはどういうことか。泰山館は、それを静かに語り続けているように感じました。

とても学びの多い見学となりました。

野本 一隆

野本 一隆

KAZUTAKA NOMOTO

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