自分の手で、空間を変えていく面白さ
女性左官職人が漆喰に込める、つくる喜びと素材への敬意

建築現場に足を踏み入れると、静かな空間の中にサッ、サッという規則正しい音が響いています。
左手に重い鏝板(こていた)を持ち、鏝(こて)を鮮やかに操って壁を塗っていく左官職人、目崎さん。
彼女が塗り上げる漆喰の壁は、単なる家の仕切りではありません。
外から差し込む光を柔らかく反射し、室内の空気を清々しく整える、住まいの心地よさを支える大切な要素です。
若手であり、女性。職人の世界ではまだ数少ない存在である彼女が、この世界に入ったきっかけや、「漆喰」や「左官」にどのような想いを込めているのか。その仕事の本質についてお聞きしました。

「一枚の壁を塗る楽しさ」からプロの道へ

田中: まずは、左官職人という道を選んだ理由から教えていただけますか?
目崎: きっかけは、自宅の壁を自分で塗り替えてみたことでした。 道具の名前も知らない、ホームセンターで材料を揃えただけの完全な素人作業。養生(ようじょう)も適当で、今思えばひどい仕上がりだったかもしれません(笑)。
でも、たった一枚の壁を無心で塗ったその時間が、驚くほど楽しかったんです。「自分の手で空間を変えていく」という 「塗る」という行為そのものに、魅了されてしまいました 。
田中: ご自宅の壁を塗ってみたことが、スタートだったのですね。
目崎: はい。思い通りにいかない難しさはありましたが、それ以上に 「自分の手で形を変えていく」という感覚が自分に合っていると感じました。その後、住宅に関わる仕事を探す中で今の会社と出会い、本格的に左官の道へ入って丸4年になります。あの時感じた「塗る楽しさ」が、今の仕事のベースになっていますね。
漆喰がつくりだす、五感に響く心地よさ

田中: ノモトホームズの家づくりでは漆喰が欠かせませんが、目崎さんが感じる漆喰の魅力とは何でしょう。
目崎: 漆喰は、知れば知るほど「生きている」と感じる素材です。 まずはその「空気感」。施工している最中から、部屋の空気がどんどん澄んでいくのを肌で感じるんです。調湿効果という機能はもちろんですが、もっと直感的な「清々しさ」がありますね。
田中: 確かに、漆喰を使用しているお寺や神社も空気が違いますよね。
目崎: あと、私が一番好きなのは「光の表情」です。 朝の光、日中の強い日差し、そして夜の照明。時間帯によって、漆喰の表面にあるわずかな陰影が、全く違う表情を見せるんです。お施主様には、その時々で変わる壁の美しさを、暮らしの中で楽しんでいただけたらと思っています。
細かい部分にこだわる、女性らしい繊細さ

田中: 職人の世界はまだ男性が多いですが、女性職人としての視点が活きていると感じる点はありますか?
目崎: そうですね。例えば、コンセント周りの納まりや、部屋の隅の仕上げなど、「細かい部分の綺麗な仕上がり」には、こだわっていると思います。
田中: その細かな配慮の積み重ねが、仕上げの美しさに繋がっていますね。
目崎: 男性職人の力強い仕事も素晴らしいですが、そうした繊細さは女性ならではかもしれません。
自分の仕事が誰かの生活の一部になると改めて実感したワークショップ

田中: 先日のお施主様との「漆喰塗り体験ワークショップ」でも、皆さんの楽しそうな表情が印象的でした。
目崎: あの時間は、私自身も刺激を受けました。玄関に入った瞬間に「わあ、すごい!」と喜んでくださるお施主様の姿を見て、自分の仕事が誰かの生活の一部になるんだと改めて実感しました。
田中: お子様たちも、目崎さんに教わりながら一生懸命塗っていましたね。
目崎: 自分たちが塗った壁があることで、家への愛着がより深まると思うんです。 お施主様が「これだけの手間がかかっているんだ」と理解してくださったことも、大きな励みになりました。その想いに応えるためにも、もっと技術を磨きたいと改めて感じました。
編集後記
目崎さんとお話しして印象的だったのは、「仕事」としてだけでなく「自分の手で空間が変わっていくことを心から楽しむ」軽やかさです。
またプロとして、空気を整え光を宿す「漆喰」に敬意(リスペクト)を持って向き合う姿に、深い信頼を覚えました。
彼女が心から楽しみ、達成感を積み重ねて仕上げた壁。そこには、住む人の毎日を心地よく変えていく確かな力が宿っています。そんな女性らしく繊細で軽やかな「漆喰壁」を、ぜひ完成した住まいで見ていただきたいです。